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東京高等裁判所 昭和27年(う)3179号 判決 1953年1月28日

控訴人 被告人 陳点俊

弁護人 牧野芳夫

検察官 司波実

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

別紙目録記載の物件は之を没収する。

被告人は政府の免許を受けないで昭和二十六年十一月中新潟県南魚沼郡六日町大字余川の自宅に於て焼酎約二斗を製造したものであるとの点は無罪

理由

本件控訴の趣意は弁護人牧野芳夫作成名義の控訴趣意書記載の通りであるから之を引用する。

論旨第一点について、

原判決が論旨摘録の如く「被告人は酒類製造の免許がないのにかゝわらず、一、昭和二十六年十一月中………焼酎約二斗を製造し、二、同年同月中………右焼酎二斗に味の素其の他の調味液を加え………合成清酒三斗五升一合を製造した」と認定した右一及二の事実につき各別に犯罪の成立を認め併合罪として処断したことは弁護人所論のとおりである。

併し原判決が証拠に引用した被告人の検察官に対する第一回供述調書の記載によれば被告人は当初より其の製造した原判決判示一の焼酎に調味液を加えて全部これを合成清酒とした上販売する目的であつたことが認められるのであるから原判示一の焼酎二斗を製造した行為は同二の合成清酒三斗五升余を製造した事実の過程行為に過ぎないのであつて独立別個の酒類製造の罪を構成すべきものではなく両者はこれを包括して観案し後の罪の一罪として処断するのを相当とする。

右の如くであるから原判決が右判示一、二の事実を各独立の犯罪と認め併合罪の規定を適用処断したのは明かに法令の適用を誤つたものであり右違法は判決に影響を及ぼすこと明かなるものと謂わなければならないので弁護人の論旨は結局その理由あるに帰する。然らば他の各論旨に対する判断をするまでもなく原判決は此点に於て已に破棄を免かれない。

仍つて刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条に則り原判決を破棄し同法第四百条但書に則つて更に判決する。

原審が適法な証拠に依つて確定した原判決の事実(但し判示一及二の事実は包括して一罪とする)を法律に照すと被告人の右各所為は酒税法第六十条第一項罰金等臨時措置法第二条第一項に夫々該当するところ所定刑中何れも懲役刑を選択し右は刑法第十条に依り犯情の重い右三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処し主文第三項掲記の各物件は判示各犯罪に係るものであるから酒税法第六十条第四項に依り何れも之を没収すべく本件控訴事実中原判示一の被告人は政府の免許を受けないで昭和二十六年十一月中新潟県南魚沼郡六日町大字余川の自宅に於て、米、米糀、水を原料としてアルコール分一度以上の焼酎二斗位を製造したものであるとの点に付ては前段説示の理由に因つて罪とならず刑事訴訟法第四百四条第三百三十六条に則り被告人に対し無罪の言渡を為すべきものとする。

仍つて主文の通り判決する。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 稲田馨 判事 石井文治 判事 古田富彦)

控訴の趣意

第一点一、昭和二十六年十一月中南魚沼郡六日町大字余川の自宅に於て米、米麹、水を原料としてアルコール分一度以上の焼酎二斗を製造し、二、同月中旬同郡同町大字田中町二五田中ナカ方において右焼酎二斗に味の素其の他の調味料を加えアルコール分一度以上の合成清酒三斗五升一合位を製造し、三、同月中前記自宅において………醪一石三斗を製造した」事実を認定し、法律の適用において併合罪として、刑法第四五条、同法第四七条本文を適用して、犯情の最も重い二の罪の刑に併合加重をして懲役五月に処した、然し乍ら判示第二の事実は判示第一の事実の結果であり、独立の犯罪であり、第一の事実及第二の事実は手段並びに結果の関係に立つものである。

此の点について、弁護人は検事に釈明をなし、検事も認めているところである。故に刑法第五四条第一項前段の牽連犯であつて法律上一罪である。原審判決が此の点を無視して併合罪としたのは、審理不尽の違法あるか又は、法律の適用を誤つたかの違法があり、何れも判決に影響を及ぼすのであるから破毀を免れない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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